これからの維持管理

山口 一宇西日本高速道路総合サービス沖縄株式会社
技術事務所 点検技術課長
山口 一宇

私は学校卒業後から25年間、橋梁に携わって来ました。若手の頃はスクラップアンドビルドが主流で、かつバブルの余韻が残る時代であり、新設橋梁設計に多く携わりました。またその頃は、阪神淡路大震災直後で、補修や耐震補強も全国的に始まった時期です。それから年月が経過し、建設の主流が維持管理へと変化するに伴い、私の関わるプロジェクトも徐々に維持管理へと移行し、2010年頃からは主に沖縄県内の橋梁維持管理に携わって来ました。その当初は、幸か不幸か全く維持管理がされていない橋梁も多く、塩害やASR等、県特有の損傷を「見て触って」と勉強の題材が多い状況でした。ここでは、維持管理の初期と最近で特徴的な事例について略述します。
初期の事例として、宮古島の池間大橋(PC箱桁橋・供用20年時点)の調査補修設計です。本業務は、更新が困難な離島架橋の長寿命化対策でした。本橋は、当時の最先端の耐塩害技術を採用し建設されていた為、大きな劣化損傷は見られませんでした。ただし桁高変化に伴う腹圧力が要因と思われる床版下面ひび割れがあり、FEM解析にて応力状態確認後に補修計画を行いました。維持管理の面では、検査路等の点検施設設置は皆無で、支承確認だけでも沖縄本島から橋梁点検車の海上輸送が必要でした。また各橋台付近に箱桁開口部が有りましたが、片方は海上部に位置し通常時の使用が出来ません。その為、桁内部の確認は暗所かつ沖縄の太陽で熱せられてサウナ状態の中、片道1・5㎞を何往復もしました。これだけ重要な橋でさえ、維持管理面は殆ど考慮されない時代だったと思います。
最近の事例として、沖縄自動車道金武橋(鋼鈑桁橋・供用42年時点)の大規模更新事業です。本工事は、劣化したRC床版をプレキャストPC床版への更新と全面塗替塗装でした。NEXCOでは、従前より定期的な点検、部分塗替塗装や床版補修等の維持工事を実施してきました。しかし通行車両の増加や大型化、塩害等により劣化が著しく進行し、抜本的な対策として床版取替工事を行いました。また本工事に合わせ、維持管理性の向上を目的として、全桁間に幅広型FRP製検査路、橋台翼壁沿いの土工部に樹脂製階段、橋梁近隣の路肩外に維持工事車両駐車スペース等の設置を行いました。この様に、近年は維持管理の重要性が認知されてきたと思います。
このような時代の変化を受け、これからの維持管理に関して私感を述べます。近年の新設橋では、建設時より高い耐久性や高水準の維持管理性を付与した構造となってきています。NEXCOでも、軽量高耐久の上部工開発、各所に点検用通路の設置、桁内に照明や移動式足場の常設等、維持管理性の向上に取組んでいます。一方、既設橋を現行の要求水準で維持管理するには、多大な費用と労力を要します。そこで維持管理技術の高度化や省力化を行う必要があります。例えば、近接目視の代替え技術や簡易な物性値調査技術等の開発を推進すべきです。また技術者確保の点からは、女性や中高年でも活躍できる環境整備が必要です。現在弊社では、動きやすい作業服や空調服の支給、快適トイレカーの配備、軽量な点検道具への更新等を行っています。また今後は女性点検員の意見も充分に取り入れ、より一層安全で快適な作業環境構築を行っていきます。
最後に、これまでお世話になった先輩方や同僚の方々へ感謝を述べるとともに、これからもより一層のご指導ご鞭撻をお願い致します。次回は、福岡県で活躍されています福田博一氏にバトンをお渡しします。

愛知製鋼