パシフィックコンサルタンツ株式会社 中国支社
交通基盤事業部構造室 室長
西谷 真吾
私は橋梁設計をメインに構造分野の設計一筋で従事し、入社28年目となります。土木のそれも構造分野を目指したのは、学生時代に開通した瀬戸大橋や横浜ベイブリッジといった名立たる橋梁への単純な憧れで、土木の花形と言えば橋梁と信じて疑わなかったことを覚えています。 とは言え、デザインに疎い、いわば自称「ガチの構造屋」の私が、デザインで昨今多少注目頂いている橋の設計に携わった経験について、僭越ながらこの場を借りて若干ご紹介させて頂きたいと思います。 これは私がこのバトンを受け取った川田工業の原孝志さんとの出会いとなった三遠南信自動車道「天龍峡大橋」という橋です。私の社会人人生の約半分の間携わり、2019年11月に開通しました。架橋地は長野県飯田市、一級河川天竜川を渡河し、文化財保護法で指定する名勝天龍峡の指定地を横断する橋長は280mの鋼上路式アーチ橋です。 「名勝」とは「風致景観の観賞を通じてその価値を発揮する記念物」として位置づけられ、この名勝地を横断する架橋事業は前代未聞でした。名勝地への架橋について協議した文化庁からは、架橋の「理念」から求められ、発注者の国交省飯田国道事務所をはじめ関係者様と検討の上、「架橋による名勝への負の影響を最小限とする」ことを掲げました。 今思えば、これが天龍峡大橋のデザインのすべてを集約していると思っています。この橋は道路線形を曲線とすることが避けられず、アーチ橋には不向きな条件の中、大規模地震(レベル2地震)に対応したアーチとなると設計事例は皆無でした。この条件下で名勝の自然改変や景観への影響を最小限とするため、アーチライズが極端に低い扁平なアーチとして、峡谷を一気に跨ぐ構造とすることを当時の上司の英断で決めましたが、構造が本当に成立するかについては一種の「賭け」でした。 上部工の重心が必然的に高い上路式アーチ橋を扁平とすることは、地震時の観点では一定の勝算はあったものの、実際には、地震時解析の度にアーチ部材の板厚がどんどん厚くなり、一向に収束の兆しがありません。これはもしかしてダメか?という気持ちも過りましたが、ある日、原因について解析のモーメント図を注視している中で、アーチ基部の近くに配置した支柱からの集中荷重がアーチ基部のモーメントを増大させていることに気づき、支柱配置を変更しました。 これが見事に功を奏し、以後板厚は減少の方向に向かい、辛うじて?構造成立に至りました。これは多々あった課題のほんの一例ですが、「諦めなければ、必ず解決策がある」ことを私が強く実感した経験です。天龍峡大橋は、名勝を主役とし、大規模アーチがどのようにすれば目立たなく、かつ合理性のある構造となるかを一心に突き詰めた結果が、土木学会田中賞や同デザイン賞の優秀賞受賞として評価されるに至ったこと、まさに技術者として万感の思いです。 三遠南信自動車道天龍峡PAから直結でアクセスでき、桁下の歩道からは名勝天龍峡の雄大な自然景観を楽しむことができますので、お近くにお越しの際は是非お立ち寄り頂ければ幸いです。 最後になりますが、土木構造物はいずれも一品生産で、どの構造物にも必ず課題があります。特に若手の皆さんは日々不安になることも多いと思いますが、諦めなければ必ず道は開けることを信じて、業界を一緒に盛り上げていければと思います。 次は私の大学の同級生で、東北にてご活躍されている片平新日本技研の西川貴志さんにバトンをお渡しします。