地域の役に立てるよう

河野 哲也富山大学
都市デザイン学部都市・交通デザイン学科 准教授
河野 哲也

私は2006年3月に大阪市市立大学大学院都市系専攻を修了後、独立行政法人土木研究所(当時、以下「土研」)に就職しました。土研では構造物研究グループ 基礎チームに研究員として配属され、主に道路橋の下部構造に関する研究開発等に従事してきました。
土研時代の12年間で、深礎基礎やプレボーリング杭工法、圧密地盤中の斜杭基礎の設計・施工方法の開発、岩盤に支持された杭の支持力評価、地盤改良を有する基礎や既設木杭基礎の耐震性評価等、多くのテーマに携わらせていただきましたが、最初に携わったのは直接基礎の地震時動的解析モデルの開発でした。H29年版道路橋示方書・同解説(以下、道示)にも取り入れられた支持力曲面などの新しい概念を組み込み、弾塑性に加えて基礎の浮上りを考慮するモデルで、学生時代は水理学を専攻していた私にとっては非常に難しかったです。また、当時はろくに文章が書けず、土研資料や論文にまとめるのに苦労しました。多忙な中で何度も指導してくださった当時の上司には本当に感謝しており、土研資料の完成後に上司にかけられた「おめでとう」という言葉が、涙が出るほど嬉しかったのを覚えています。
直接基礎と並行して、1年目からフーチングのASRの研究にも取り組みました。これは、当時、鉄筋破断を伴うような甚大な損傷を生じたフーチングが発見されたことを踏まえて開始した研究で、土研の敷地内に大規模なフーチングを埋めて長期暴露試験を行うという今までに例を見ない試みでした。暴露試験を始めて13年を迎える現在も実施中ではないかと思います。さらに載荷試験も行い、耐荷性能及び補修補強効果を確認しました。2011年4月に京都大学大学院社会基盤工学専攻後期博士課程に入学し、宮川豊章教授(当時)に3年間ご指導いただいて博士論文としてまとめ、博士(工学)の学位を授与されました。
土研時代には、平成24年版と平成29年版の道示IV下部構造編、斜面上の深礎基礎の設計・施工便覧、杭基礎設計便覧と施工便覧の改定に取り組みました。中でも制定以来の大改定といわれた平成29年の道示改定では、日本道路協会下部構造小委員会の幹事として、編構成の変更を踏まえた他編との調整、熊本地震等の近年の被災事例を踏まえた下部構造の設置位置・形式の選定、限界状態や部分係数の検討、各基礎の標準的な照査法や計算モデルの見直しなど、多くの事項に取り組みました。非常に大変な業務でしたが、各編の委員会や下部構造小委員会、関係WGの委員など、関係各位にご指導・ご協力いただきましたこと、本当に感謝しております。
道示の改定を終え、その後の道路協会主催の改定講習会の講師等が一段落した2018年3月に土研を退職し、同4月に開設した富山大学都市デザイン学部都市・交通デザイン学科の准教授となり、ASRや基礎に関する研究を続けています。金沢大学の鳥居和之教授(当時)をはじめとする北陸SIPの仲間に入れていただき、土研時代はあまりなじみのなかった上部構造を含め、楽しく勉強させていただいています。地域の行政や関係企業の方にも現場見学や講演会等のお誘いをいただくなど、暖かく迎えていただき、ありがたく思っております。若輩ですが、少しでも地域の皆様のお役に立てるように精進するとともに、今後ますます重要となる構造物の維持管理を担っていく後進の学生をしっかり育てていきたいと思っています。引き続き、よろしくご指導いただきたく思います。
北陸SIPリレーはもう少し続きます。次回は、石川工業高等専門学校 津田誠先生です。

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