株式会社日本ピーエス
九州支店技術グループグループ長補佐
福島 邦治
私が尊敬する首都高速道路の永田佳文様からバトンをいただきました日本ピーエスの福島と申します。私の人生は、たくさんの想像を超える「まさか」で構成されています。今日はその中から抜粋してご紹介したいと思います。 まさか1:高校3年生の春に、土木屋だった父の誘い水にのってしまい私立文系から国立理系に急ハンドルでコース変更。3年の浪人生活を送る。勢いで人生の選択をしてはいけないことを痛感。未だに癒えない私の黒歴史。 まさか2:大学3年生の時に、土木業界の実務が学びたい、と日本ピーエスの橋梁建設現場でアルバイト。たくさんの人々の力を集めて橋を作ることの楽しさと橋ができる喜びを知る。1年半後、日本ピーエスに入社。橋人生が始まる。当時アルバイトをした現場所長に「ホンマにうちに来るのか?」とダメ出しを食らう。 まさか3:入社4年目の2000年、常磐自動車道に建設予定の、PC11径間連続箱桁橋、PC13径間連続箱桁橋+PC14径間連続箱桁橋の詳細設計業務に従事。スパンバイスパン架設による総延長2㎞を超える橋梁の主桁PC床版の設計を担当。いつか100mを超える橋にたずさわりたい、と夢を抱いていたが、いきなりの長大橋に我を忘れる。多くの設計成果が必要を必要とされたため、日を跨いでJVの皆さんと仕事を頑張った。いまだに当時の方々から、福ちゃん元気?と夜遅くの近況報告の電話がかかってくる。いつか、この近況報告の通信手段が電話からメールに変わることを信じている。 (4~116まで省略) まさか117:2012~2018年、熊本県上天草市に架設される橋長463mの鋼PC複合中路式アーチ橋、天城橋のPC桁施工部分の技術支援に従事。JVのみなさんと様々な課題に取り組む。両側で8700㎥のマスコンクリートとなるアーチアバットの温度解析。地盤と躯体の拘束による引張に対してXYZの3方向にPC鋼材を用いたプレストレスによる圧縮力を導入した。 鋼PC接合部の鋼殻セルと呼ばれる狭所打設では、大型バキューマーで内部空気を吸引して高流動コンクリートを打設した。富配合の高流動コンクリート打設では温度ひび割れ防止のため、マイナス196℃の液体窒素を噴射してコンクリート温度を低減した。様々な施工の工夫や新しい技術を用い、足掛け6年、受注から開通式までこの橋とお付き合いした。 開通式では、橋の計画・設計・施工に携わった方々が一堂に会し、まるで同窓会のような様だった。天城橋は平成30年度土木学会田中賞作品部門をいただいた。完成後、地元のレストランの方から、橋が完成して渋滞が減り、とても便利になりました、本当にありがとうございました、とお声掛けいただいた。あまりの嬉しさに涙をこらえるのに必死だった。 まさか118:2019~2021年、山口大学創成科学研究院の吉武勇教授のもと、広帯域超音波法(WUT)を用いたPCグラウト充填調査の適用性と精度向上に関する研究を行った。グラウトがきちんと充填されていれば、たとえ内部のPC鋼材が破断しても耐荷力に与える影響は軽微であることが既往の研究から明らかにされている。 自身の研究の過程で、この事実を知り、改めてグラウトの大切さを認識する。非破壊調査のため、コンクリート内部を伝搬し、シースで反射する超音波帯域の弾性波は、目で見ることができない。発信した波と得られた波。二つの波を見続け、何とか真値に近づこうと実験・解析に明けくれた3年間であった。 2021年3月、吉武勇先生のご指導のおかげで何とか研究成果をまとめることができた。研究という行為は、真っ暗な暗闇の中、一人でボートを漕ぐ心境であった。吉武先生、一緒に研究した研究室WUT班の4人、そして社内外みなさんが、私の研究に対し、たくさんの気づきを与えてくれた。みなさんは私の進む先を照らしてくれた灯台のような存在であり、共に戦った戦友であると感じている。 私の想像を超える「まさか」の数々。そこにあるものはたった一つ。新たな人との出会いと、出会ったみなさんとのつながりです。これからも、つながってきたみなさんを大事にし、新たな出会いに感謝して橋人生、いや、「まさか」の人生、を送っていきたいと思います。次は、私が所属するツタワルドボク事務局長であり、いつも私の想像を超えてくるSplice―Lab取締役の藤木修さんに、バトンをお渡しします。