建設業に夢と誇りを

中州 啓太国土交通省国土技術政策総合研究所
社会資本マネジメント研究センター社会資本マネジメント研究室 室長
中洲 啓太

私の学生時代は、明石海峡大橋が開通し、下関北九州道路はもちろん、東京湾口、紀淡海峡などの海峡横断プロジェクトは続くのだろうと考えていました。恩師は、木を見て構造美を語る依田照彦先生(早稲田大学名誉教授)で、私も先生のような心をもって研究をしたいと考えるようになりました。 1999年に建設省入省。最初の配属は土木研究所橋梁研究室でした。当時は、オープングレーチング床版の輪荷重走行試験など、海峡横断プロジェクトを見据えた研究がありました。一方、入省時は、行政改革のまっただ中、政府の公共事業関係費は右肩下がりとなり、入省2年で、国土交通省国土技術政策総合研究所(国総研)に所属が変わります。研究テーマは、性能規定、規制緩和(車両大型化)、維持管理などが中心となりました。 その後、2006年からの姫路河川国道事務所在籍中は、道路特定財源一般財源化を巡る動きを経験、コンクリートから人へと言われた頃、国総研でバリアフリー、交通安全の研究を経験します。国内から海外へとも言われ、2012年からJICA専門家としてインドに赴任します。 当時、インドの国道事業は、資金調達、設計、施工、管理、運営を民間事業者に一括発注するBOT(Build,Operation & Transfer)方式が基本でした。BOT方式は、将来の事業に収益をプールできず、地方部や難易度の高い事業を中心に事業の停滞が問題になりました。ムンバイ湾横断道路事業は、BOT方式で入札不調となり、公的財源である円借款への切り替えを機に、協力準備調査で、工期短縮、リスク低減を図る日本技術を導入し、日本企業参画が実現しました。リスクを伴う公共事業は、民間企業の裁量を増やすだけは成功せず、資金、技術、リスク管理で政府が十分に責任を果たすことの重要性を学びます。 2016年以降は、建設マネジメントの研究に携わっています。淀川大橋、犀川大橋などでの技術提案・交渉方式の適用支援や改善に取り組み、高度な施工技術の活用や、リスクへの対応のため、橋梁工事、橋梁補修工事等で更なる活用が期待されます。工事の性格、地域の実情に応じ、事業促進PPP、随意契約、指名競争入札、フレームワーク方式の活用にも取り組んでいます。これらの方式は、海外のように受発注者が契約図書の解釈、責任の所在を巡り、対峙するのではなく、受発注者がパートナーシップを組み、品質の確保、事業の促進に協力的に取り組む日本の建設業が従来から得意としてきた考え方をとっています。 また、防災、減災、医療、安全、定住、産業、雇用、所得等、公共事業の多様なストック・フロー効果の研究にも取り組んでいます。研究室の試算によると、高速道路整備は、事業費の2・31倍の生産額増加、1・14倍のGDP増加、0・62倍の所得増加などのフロー効果がストック効果とは別に発生します。 国内外の公共調達、事業執行に関する様々な改革の経験を踏まえると、政府の関与を限定し、民間企業に責任やリスクを移転するだけの改革は、民間企業がコントロールできないリスクに対し、費用増加、工期延伸など大きな社会的損失を生んだ事例が多くあります。 日本の建設業が夢や誇りのあるものとなるためには、従来からの政府の役割や、公共調達・事業評価の考え方は、民間企業の意欲を引き出しづらいもの、不透明なものと切り捨てるのではなく、透明性を確保する工夫と組み合わせながら、受発注者が対立せず、業界全体がパートナーシップを組む取組の良さを取り戻していく視点も大切と考えています。 次はNEXCO東日本の塩畑英俊さんにつなぎます。

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