京都大学大学院
工学研究科社会基盤工学専攻准教授
北根 安雄
私が橋梁に関わるきっかけは、大学4回生で渡邊英一先生の研究室に配属されたことでした。 卒業研究は、鋼製橋脚箱型断面柱の耐震性能に関するもので、当時研究室の助手でいらした杉浦邦征先生にご指導いただきながら、鋼製箱型断面柱モデルの繰り返し載荷実験を実施したことは、現在も鋼構造の分野で研究活動を行えていることの礎となっています。 修士課程1回生の時に、阪神淡路大震災が発生し、被災地で目の当たりにした橋梁の損傷は、今でも鮮明に記憶に残っておりますが、その後の耐震研究の原動力になりました。 博士課程では、当時、ニューヨーク州立大学バッファロー校の米国国立地震工学研究センターの所長であられたGeorge C. Lee先生の研究室へ留学しました。一番最初にLee先生にお会いした時にいただいた言葉が、「あなたは日本とアメリカとの懸け橋になりなさい」でした。せっかくいただいたお言葉ですが、現時点で、それは十分には実現できていないかもしれませんので、今後の課題です。博士論文の研究では、FRPとコンクリートの複合構造を用いた橋梁上部構造の開発を行いました。 卒業後は、Simpson Gumpertz & Heger, Inc.という構造コンサルタント会社に就職し、3年間さまざまな業務に携わることができました。残念ながらこの間は橋梁に関係する業務は少なかったのですが、業務をこなす中で、これまで頭の中で点在していた教科書や研究で得た知識が、線でつながる感覚を覚えたことは非常に貴重でした。そのうえ、地盤と構造物の連成問題、腐食、鋼構造物の耐火性能など、その後の研究活動で非常に有益な知識も得ることができました。 また、訴訟社会である米国では建設関係の訴訟も多く、専門家として弁護士から雇われ、不具合が生じた原因につながる証拠を見つけたり、原因を推定したりするような業務にも関わることができました。 2006年に日本に帰国後は、大学に籍を置き、鋼構造および複合構造に関する研究を行っています。鋼構造では、特に腐食維持管理問題に取り組んでいます。防食性能、防食の補修、腐食耐荷力、腐食部材の補修補強などがその具体的な内容ですが、名古屋大学の伊藤義人先生の研究室でその基礎を教えていただきました。 最近は、腐食した部材の変形性能が低下することに興味をもち、実験的・解析的に変形性能に対する腐食の影響を評価しています。鋼橋は腐食させないことが原則で、塗装などの防食機能が維持できれば、腐食に関しては長寿命化が可能ですが、実際には、腐食が発生してしまう場合も多く、防食機能の高耐久化または耐荷力の大きな減少に至るまでに腐食を発見し補修する技術が重要だと思います。 複合構造に関しては、主にFRP材料の土木構造物への適用を検討しています。日本では、まだ道路橋や鉄道橋の構造部材としてFRPを使用するまでには至っていませんが、歩道橋では複数のオールFRP橋が建設されています。新しい材料を使用することにより、より合理的な構造部材や新しい構造形式に発展することを期待して研究しています。 土木構造物は維持管理の時代などと言われますが、今後も有能な学生に橋梁業界に興味を持ってもらうためには、学生が面白そうと思い将来性を感じられるよう内容で、構造工学や橋梁工学の講義を大学で提供する必要があります。3Dプリンターで橋を製作することも可能な世の中ですから、型にはまらず自由な発想で今後も研究・教育活動に励み、学生が夢を持って橋梁業界へ入っていくための懸け橋になれるよう努力していきたいと思います。 次は、学生時代、同じ研究室で学んだ阪神高速の丹波寛夫さんにバトンを渡したいと思います。