本格的な老朽化対策

増田 安弘近畿地方整備局
企画部 技術調整管理官
増田 安弘

富士ピー・エス技術センター研究所の正木守様よりバトンを受けました近畿地方整備局の増田安弘です。 2012年12月の笹子トンネル天井板崩落事故を契機に、道路の老朽化対策の本格実施に関する提言がなされ、道路構造物の定期点検など老朽化対策が本格的に進められることとなりました。 国総研にも道路構造物研究部と、橋梁研究室など三つの研究室が設置され、2015年4月に全国の地方整備局から国土技術政策総合研究所に集められ、私達6名は赴任しました。 正木様とは、その時に老朽化に対する様々な研究をご一緒させていただきました。 自治体への支援として「直轄診断」もはじまり、高知県の仁淀川町の大渡ダム大橋が全国で初めて選定されました。大渡ダム建設に伴う補償工事として、建設省四国地方建設局(当時)が橋長444メートルの吊り橋を含む橋梁形式として建設し、仁淀川町に移管した橋ですが、吊り橋という特殊な構造形式で、ケーブルシステムの健全性がその性能に極めて重要となることから、健全性の評価、今後の維持管理方法について技術的観点から助言としてとりまとめ、翌年から修繕代行を行った橋梁です。 吊り橋は、主塔を除く作用する荷重の大半をケーブルシステムの張力によって定着部に伝達する構造で、風で揺れやすいために、疲労耐久性が問題になりやすい形式です。全国には800橋程の吊り橋がありますが、そのほとんどを市町村が管理していることもあり、直轄診断の経験も踏まえ、四国地整の皆さんと「小規模吊り橋等の点検に関する管理者のための参考資料(案)」の発行に携わった事を思い出します。 また、私の出身である近畿から奈良県十津川村に架かる「猿飼橋(橋長:144メートルランガー橋)」が直轄診断に選定されました。 主桁の溶接の一部で亀裂が発見される一方で、検査路がなく損傷の発見など日常の維持管理が困難なことから、直轄修繕代行では、損傷箇所の補修に加えて、維持管理性を考慮して検査路の設置や、部材毎に劣化の進行状況も異なることを踏まえて、合理的な塗装仕様を検討しました。そして修繕代行も行い2018年6月に無事完成し、引き渡しを行いました。 この頃、近畿地方整備局では、老朽化橋梁の大規模修繕事業に取り組もうとしている時でもありました。 国道2号の淀川大橋で、1926年(大正15年)に架設され、90年以上が経過、第二次世界大戦の被災や阪神淡路大震災なども経験していますが、床版の漏水、剥離・鉄筋露出、ひび割れ、補修材の再劣化、鋼材腐食など様々な種類の著しい損傷が見られ、抜本的な対策として床版の取替工事を実施するに至りました。 傷みの激しい既設床版(RC床版構造)を鋼床版に変更し、健全化するものですが、基礎形式は木杭部分と、パイルベントのようなコンクリート井筒基礎となっており、耐震性能が低く、上部工の軽量化を図ることが目的でもありました。施工に当たっては大規模な交通規制が長期間に及ぶこともあり、直轄初の設計交渉・施工タイプによる調達方式を採用し、2020年8月にリニューアル工事も完成しました。 このように、橋梁の老朽化対策が進んでいることに喜びを感じています。 次回は、淀川大橋で現場代理人を努められた、IHIインフラシステムの牟田口拓泉様にバトンを繋ぎたいと思います。 最後に、国総研でお世話になった当時の橋梁研究室長の、玉越隆様(現京都大学客員教授)と星隈順一様(現中国地整企画部長)に、心よりお礼を申し上げます。

愛知製鋼