一般社団法人沖縄しまたて協会
技術環境研究所技術環境部技術環境室 室長補佐
玉城 喜章
私が、橋梁に関係する仕事に携わったのは、今の職場に転職した36歳の時です。それまではゼネコンで山岳トンネル掘削工事に従事してきたため、同じ土木でも違いの大きさに衝撃を受けたことを今でも覚えています。トンネル掘削は、周辺地山も構造物の一部と考えること、事前の地山ボーリングで支保工の種類を仮に決めますが、実際は掘削において地山を見ながら適切な支保工や補助工法を選定します。しかし、橋梁は、道路橋示方書で上部工、下部工、橋種により設計の考え方が明確に決められています。構造力学や材料学など、最も土木工学で学んだことが如実に生かせる分野とも感じました。橋梁に関する分野の中で、具体的には橋梁点検の診断部分の仕事を、これまで続けてきました。最初は、なんとなく、熱帯性気候の沖縄では、鋼やコンクリートの損傷原因となる塩害が大きいこと、軽自動車の台数が半分を占めているため鋼や床版の疲労が見られないことなど、表面のみで分かった気分になっていました。 幸運だったのは、国管理の橋梁診断業務に携わらせて頂いたことで、多くの学ぶ機会が得られたことです。おかげで、わかった気になっていた思いが吹き飛びました。まず、一つ目に、土木研究所理事長の西川和廣様の講習会の時に、診断の「姿勢」について教わりました。診断とは何か。それは、点検結果から損傷の種類と原因を特定し、補修方法を示すことである。目指すべきは、総合診療医(=かかりつけの医者)であるということです。設計、施工、維持管理という区分の中で、自分が維持管理の区分で仕事している気持ちは何となくありましたが、100年供用の段階に入った今、信頼される診断とはということについて考えさせられました。 二つ目に国土技術政策総合研究所の玉越隆史様には、「実践」について教わりました。知能と技能が不可欠なのが診断であること、その中で、緊急性、深刻さ、原因、残存耐力、設計思想、他の損傷との関連性を考え、診断しなければならないということです。橋は、人間のように「痛いと言わない」から、しっかり診断を行い適切に措置を決めていく必要があるという言葉が今も残っており、現場ではいつもその思いで診断するようにしています。 三つ目に、専門的な「事象」についてです。沖縄の腐食は、本土より平均風速が速く、台風常襲地域でもあることがら、本土のように離岸距離により海塩粒子の飛来量は減衰しません。南北に細ながいことから、地形的にあまり内陸部という概念はなく、腐食が塩分により進行すると思いがちでした。専門医に例えられる琉球大学下里哲弘教授には、腐食の進行は海塩粒子飛来量のみならず、濡れ時間による腐食進行が大きく寄与することを教えて頂きました。単に付着塩分量ではなく、周辺が樹林で湿度が高ければ、海塩粒子飛来量が遮られていても5年間隔での点検において予想以上に腐食進行が進む理由がよくわかります。 最後は、ゼネコン時代に学んだことで、今に生かせているものとして、現場100回という言葉があります。診断では現場で近接目視にて損傷を確認することが必須ですが、現場に足を運んだほど、新しい発見があり、現場が先生と呼ぶべきものと心から思います。 まだ半人前の私ですが、先生方からの教えを肝に銘じ、この業務に励みたいと思います。次は、設計から研究サイドまで幅広い見識を持たれている南伸代表取締役久米様に引継ぎます。