大阪大学大学院
工学研究科准教授
廣畑 幹人
私が橋梁分野に足を踏み入れたのは、2002年、大阪大学工学部地球総合工学工学科土木工学科目の4年生研究室配属の時です。 接合科学研究所の金裕哲先生のお話に感銘を受け、迷わず金裕哲先生の研究室を選びました。 金裕哲先生は、もとは造船分野におられましたが、諸々の経緯で土木分野に遷られました。 ご専門は溶接力学で、橋梁分野の本流というわけではありませんが、橋梁、造船、建築の枠にとらわれず鋼材を接合し部材や構造物を形成するうえで不可欠な要素技術である溶接の奥深さ、面白さを伝えてくださいました。橋梁を含む鋼構造全般の話題に触れ、その多くに溶接などの熱加工技術が深く関与していることを知りました。 研究そのものに興味を持ちましたが、大学、研究室で過ごすのが居心地良く、自然と博士課程まで、さらにその先も大学で働きたいと思うようになりました。 卒業論文から博士論文まで一貫して、座屈変形した鋼構造部材に対する加熱矯正による補修に関する研究に取り組みました。構造工学、鋼構造と熱加工が関係し合った課題であり、その中で培った経験や知識、熱を利用して構造物を補修するという考え方は現在の私の研究方針の基礎となっています。 2008年3月に博士課程を修了した後、約3年間、いわゆるポストドクターとして接合科学研究所で勤務しました。 この頃までの私は、名目上は土木、橋梁分野の所属ではありましたが、研究内容としてはかなり溶接分野に偏っていました。そのような状態にやや危機感を覚えていたころ、ポストドクターの契約期間も終了が近づき、新たな勤務先を探さなくてはなりませんでした。 名古屋大学の伊藤義人先生の研究室で助教の募集があることを知り、私のように溶接に偏った経験しかない人間が採用されるのかどうか全く自信はありませんでしたが、運良く採用され、2011年2月に名古屋大学へ移ることとなりました。 伊藤義人先生の研究室では、座屈耐荷力、耐震、腐食耐久性など鋼橋分野全般を広くカバーしており、その中で様々な勉強をさせていただきました。 自分自身で研究課題を進めていく自立性を持つことの重要性も認識し、名古屋大学で過ごした約7年間は大学研究者としてキャリアを積んでいくための基礎を身に付ける時期であったと思います。 2018年4月に、大阪大学の現研究室に准教授として採用されました。伝統ある阪大土木の構造系研究室で働くことのできる喜びを感じながら、日々精進しております。阪大接合研時代に培った溶接、熱加工の知識と、名大時代に勉強した鋼橋の維持管理、耐久性評価に関する経験を組み合わせて、様々な課題に取り組んでいます。 この組み合わせを象徴するのが、高周波誘導加熱による防食塗膜剥離(IH工法)における部材の安全性評価です。近年注目されつつあるIH工法ですが、IH装置の制御を誤ると部材の変形や鋼材の機械的性質の変化が生じる可能性があります。IH工法に伴う部材の力学的挙動や鋼材の材質変状の有無を明確にし、より安全、効率的な施工を実現するための研究に取り組んでいます。 また、土木学会鋼構造委員会において2020年4月に「防食塗膜剥離における高周波誘導加熱の利用に関する調査研究小委員会」を起ち上げ、橋梁管理者、塗膜剥離施工者など多岐にわたるメンバーと連携して調査活動を進めております。 熱加工技術を駆使して、橋梁の維持管理に資する研究を今後も展開していきたいと考えておりますので、ご指導いただけましたら幸いです。 次はエム・エムブリッジの小西英明様にバトンタッチさせて頂きます。