三重塗料株式会社
取締役副社長
湊 久幸さん
三重塗料は1947年創業の三重県屈指の老舗塗料会社。橋梁の長期保全に威力を発揮する、「アースコート防錆‐塗装システム」などを展開する。 幼少の頃から創業者の祖父や、先代社長の父が運転するトラックに乗せられ、工事現場を遊び場にしていた。「職人さんの話を聞くのが楽しかったですね」。話を聞きたがる少年、自慢話に花を咲かせる職人、そんな光景に父達も目を細めていた。 塗料を身近に育った少年は工業高校に進み、工業化学を専攻、塗料を扱うための資格取得に邁進しつつ、ギタリストとしてアマチュアバンドにも熱中する。卒業後は大学に進学、そして家業に就く。その順当な歩みに変化が生じたのは高2の終り。バンドにプロデビューの話が持ち上ったのだ。好きな塗料と、未知の世界への挑戦の狭間で若い心はざわめいた。「父と話し合い、大学に行ったつもりで4年間を目途に、思う存分やれと言ってもらいました」 18の年に仲間と東京へ。インディーズバンドとしてライブハウスを回り地道な活動を重ねた。様々な苦い経験も経て、仲間と支えあった4年間が過ぎた頃、「やるだけのことはやった」という思いから、仲間の意思も確認し解散、郷里に戻った。 「もう迷いはありませんでした」。とはいえ入社した2000年代初めはバブル崩壊後から続く建設不況真っただ中。待っていれば仕事が来ることに慣れていた老舗は、新興の同業者に容易に出し抜かれてしまう。停滞感が漂う中、「どうせ新参者、掻き回してやろう」と決意。ベテランが回らない大手の建設会社を選んで営業をかけ、少しずつ販路を広げて行く。「周りも評価してくれて若手の教育係も任されるようになりました」。かつてステージ上から、観客と共に作り上げた一体感が会場を支配した時に、最高の音楽が生まれる光景を見た。「商売も同じ、まず『顧客と共に』です」。45才、松阪市出身。 (川村淳一)