ASR対策への道

顔写真 私が初めてASRに携わったのは、博士前期課程の大学院生の時でした。ご指導を受けておりました大阪工業大学の井上晋先生の元で、ASR劣化を生じた柱部材の耐震性能を評価する研究に従事しておりました。実験はまず養生槽を製作することから始まりました。反応性骨材として養老産チャートを用いておりましたが、供試体を屋外で暴露すると反応に数年程度の時間がかかり、期限までに論文が仕上がらないという課題がありました。普段、時間にはゆとりのある学生生活でしたが、大学院修了延期は避けたいことから、促進養生槽は不可欠でした。水中養生用の水槽を改良し、蒸気が逃げないように養生槽のフタを発泡スチロールとベニヤ板で製作しましたが、図面上ではmm単位で設計しても、木材加工の腕がともなわず、出来上がったフタは数mm程度の誤差があり、フタの隙間から蒸気が漏れ、養生環境を一定に保つことが難しく、試行錯誤したことを覚えています。研究成果としては、正負交番載荷を行った場合には、4~5δy(降伏変位)以降は健全な供試体と比較してコンクリート負担せん断力が急激に低下する挙動を得ました。これらの成果からfib Congress 2002 Osakaで発表する貴重な機会を得ました。(株)ニュージェックに入社後は(財)道路保全技術センターや(財)海洋架橋・橋梁調査会(現 (一財)橋梁調査会)へ出向する機会を得ました。国道26号堺高架橋や国道2号姫路バイパス等のASR対策に従事する機会を得ました。鉄筋破断が確認された直後でしたので、橋脚のはり部材に対するベントによる仮受けの要否判断にはじまり、構造物の安全性評価、鋼板接着工法による補強実験の実施、構造物のうきやひび割れ調査、コンクリートの物性調査、鉄筋破断調査等の各種調査、ASR対策検討委員会の資料作成等に従事しました。とりわけ、委員会開催の前は忙しく、協力会社の(株)国際建設技術研究所や(株)鴻池組の方の協力を得ながら事務所にて徹夜で作業に従事しておりました。 また、委員会では京都大学の宮川豊章委員長をはじめとする委員の皆様のご意見を賜りながら、課題を一つずつ明らかにしながら検討を前に進めることができたと考えております。紙面をお借りして関係各位の皆様に心より御礼申し上げます。さらに、ASRにより鉄筋破断を生じた橋脚のはり部材の補強工法として、3面鋼板接着工法の実験に携わる機会を得ました。はり部材の引張側に鋼板を接着すると効率よく補強できますが、橋脚天端には沓座があることから、はり部材の圧縮側と側面のみに鋼板を接着する工法について、補強効果を検証しました。その結果、無筋コンクリートに3面鋼板を接着した場合に、健全な鉄筋コンクリート部材と同等の耐力が確保できること、さらに、補強設計の耐力算定式を提案することが出来ました。現在は大学教員として授業や学生の研究指導を行っております。主な研究テーマとして、ASRと鋼材腐食による複合劣化が生じた部材の安全性評価に取り組んでおります。アセットマネジメントの観点から構造物の性能を適切に評価することが求められておりますが、劣化したコンクリート構造物は構造細目が成立しない場合もあり、マクロ式での評価には限界があります。しかし、解析技術を活用する場合には、入力値としてコンクリートや鋼材の物性の評価、コンクリートと鋼材の付着特性の評価、材料劣化の空間的なばらつきの問題等の様々な課題が挙げられます。これらの課題の解決に向けて、ASR対策への道(検討)を今後も歩んで参ります。

愛知製鋼