利用者目線での橋梁建設を

津曲 渉東京大学
大学院情報学環特任研究員
津曲 渉

私は、1994年に旧建設省関東地方整備局に採用され、これまで道路の新設に多く携わってきました。2017年から東京大学に出向し、現在は橋梁点検データを統計的に分析し損傷箇所の予測を行うなど維持管理に関する研究をしています。  仕事を始めた頃に山梨県を通る中央自動車道のハイピアを見た時に、「どうやってこれを作ったのだろう。人間が作ったんだよな」と先人の偉大さに感動し、いつか自分もと思ったのを今でも覚えています。それから運転中も下から眺めるほど橋が好きになりました。  最初に担当したのは、橋梁の架替で横浜市にある国道16号保土ケ谷バイパスにかかる今井一号橋というPC中空床版橋の撤去工事でした。当時、1日に16万台の交通量の道路を通行止めし、床版をワイヤーソーで切断、ジャッキダウン後に大型台車で搬送する工事でした。私は主に工事積算や広報の担当でしたが、首都高速道路や横浜横須賀道路につながる重要な路線の通行止めに伴う社会的影響、時間短縮を求めた日本初の総合評価方式の工事積算、現場では当時は珍しかった大型台車での搬送や大型ジャッキの降下など、どの場面でも気の抜けない工事に携わらせてもらいました。当時 現場を担当していた上司や施工を担当した株木建設、交通規制を担当したシンコーハイウエイサービスなど現場の皆様にはプロの仕事を勉強させて頂きました。 現場の監督員となった30代では国道246号にかかる歩道橋の新設工事が印象に残っています。そこでの課題は住居や商店が隣接する交差点上に斜めに上部工を架設するもので、架設には大型クレーンと地組桁の施工ヤードの確保が命題でした。施工ヤードは交差点近傍の公園を使用したのですが、公園の利用にあたり、若輩者の私では地元の公園利用者の理解を得られず何度も挫折しそうになりました。地元の方が理解していただくにはどうすればいいのか相当悩みました。いろいろと苦慮しましたが、地元の区長さんとの対話を続けるなかで信頼を得ることができ、無事ヤードの確保が叶いました。架設時には深夜にも関わらず区長さんをはじめ地元方が多く現場を見守っていただき無事に架設できました。 その後、首都圏中央連絡自動車道の菖蒲白岡ICから幸手IC間の施工管理や品質管理を監督員して担当しました。開通目標に向けた集中的な工事発注がされており、施工を担当するゼネコンとの打ち合わせや関係市町村との調整に追われました。 一番大変だったのが電波障害でした。ジャンクション付近であり約25メートルの橋脚が密集する地域の北側では、事業中、相当数の電波障害が発生しました。電波は目に見えるものではなく予測が困難ため、休日を含め住民の方からの連絡があったらすぐに駆け付けるというのが私の役目でした。 年末に、「見たいテレビがあるんだ。すぐに対応してくれ!」と厳しいご指摘もありました。幸いにもアナログからデジタルへの切り替え時期であり、デジタルチューナーを仮設置させてもらうなどの対応ができ早期に対処できました。 橋梁の建設現場においては、鋼やコンクリート専門知識も必要ですが、「段取り八分」というように利用者目線に立った事前の準備がいかに重要であるかを学びました。 今後もこれまでの経験を生かして利用者が安全・安心で喜ぶ道路を作りたいと思います。 次は、内閣府のSIPプロジェクトのフェローであり尊敬する和田祐二様にリレーします。

愛知製鋼