東工大土木の思い出

鈴木 啓悟福井大学
工学研究科建築建設工学専攻 准教授
鈴木啓悟

東京理科大学の臼木恒雄先生のもとで学士号を授かり、その後修士からは東京工業大学へ進み、三木千壽先生(現東京都市大学学長)のご指導を頂いた。三木千壽先生には日々、懇切なご指導を頂きながら、また時として研究室近くの中華料理屋で夕飯をご一緒させて頂いた。
先生と行くと、女将さんがしばしば餃子をサービスしてくれたので、私もその恩恵にあずかって随分と栄養をつけたものである。あまりに頻繁に行ったものなので、キャンパスからお店までの道のりは今でも目をつぶってでも行けそうな気がする。しかしながら現在は店じまいしたようで残念な限りだ。
当時の研究室には佐々木栄一先生(現東京工業大学准教授)が助手として研究室全般の舵取りをされ、客員教授の市川篤司先生(現総研エンジニアリング社長)からのご指導もあったほか、現在各方面でご活躍の先輩方が多数在籍していた。
このような研究室で送る日々は非常に刺激的で、苦労しながらも様々な知識を吸収した時期であった。疲労、腐食、耐荷力、FEM設計、非破壊検査、健全度モニタリングなど鋼橋の課題全般がテーマとなっており、ゼミでは高度な議論が交わされていた。この時に得た幅広い知識は自分の大きな財産となり、福井大へ着任してからの研究展開につながっている。
当時の自分のテーマである橋梁モニタリングの研究は、計画的に進んだとはいえず、一つ一つの壁を乗り越えていくことに精一杯であった。D3新年明けが期限の博論提出が近くなると、研究室での泊まり込みは当たり前で、机から離れられない時間が続いたが、この期間中ずっとサポートしてくれていた玉井誠司氏(現清水建設)と大晦日に“夕飯時だけ”と観始めたバラエティ番組を長々と観てしまい、いつの間にか新年を迎えていたのは良い思い出である。
その後三年間に渡り、三木千壽先生のもとで助教として身を置かせてもらい、学生とは異なる立場で教育・研究と向き合う時間を頂いた。当時の東工大土木には助教会なるものが存在し、助教同士が集まり、真面目な話を存分に、時には砕けた話もしながら、意見交換をしていた。分野を問わず、年齢の近い者同士を繋げる場があったのは、助教の多い東工大土木ならではの良さだったのかもしれない。この時に知己を得た斎藤隆泰先生(現群馬大学准教授)とは分野が近かったこともあって連携機会が多く、現在に至るまで非破壊評価や波動伝搬に関する意見交換をしている。
2012年からは福井大学に採用され、研究室運営をしながら橋梁と向き合うこととなった。福井県は県と各自治体、技術公社、コンクリート診断士会などが活発に活動しており、また研究面でも深田宰史先生(金沢大学)、宮里心一先生(金沢工業大学)、伊藤始先生(富山県立大学)を始め、北陸地域の先生方と連携を取ることが出来るなど、有難い環境に身を置けている。
福井に来てからは鋼橋のみならず、コンクリート橋梁をターゲットとした研究にも力を注ぎつつあり、特にPC橋梁のモニタリングや、関連する非破壊評価技術は難しくも面白く、大きなやりがいを感じている。四苦八苦しながらも成果が出たときの達成感は何にも代え難い喜びがある。“分からないことが分かるようになる”、“出来ないことが出来るようになる”に喜びを感じるのは人間の本能なのだろうか。これからも日々邁進して橋梁技術の進展に貢献する所存である。
次回は金沢大学の深田宰史先生をご紹介致します。

愛知製鋼