JFEエンジニアリング株式会社
社会インフラ本部 改築事業部 技術部長
志賀 弘明
幼い頃から構造物や橋が好きでした。造形的な美しさだけでなく、巨大な重量物の迫力と、重力と釣合う構造物のバランスやスレンダーさに、魅了されたように思います。 学生時代に一人旅でアントニ・ガウディの構造を見に行きました。有機的な柱や梁が美しく安定し、構造物のかたちから、自然な力の流れと釣合いが目に見えるように感じたことが、印象に残っています。 大学では、依田照彦先生(早稲田大学理工学術院名誉教授)に師事しました。「木の幹や枝のかたちは、自然で理に適っている。」という依田先生の言葉を、今も鮮明に憶えています。 先生からは、構造力学の知識だけでなく、その奥深さと興味、社会インフラの重要さ、技術者の役割、そしてなにより社会のために探求するひたむきで崇高な姿勢を学びました。 大学卒業後、自分自身で構造物の設計や建設に携わりたい思いから、当時の日本鋼管に入社しました。最初に担当した仕事は、首都高速道路の耐震補強でした。安定している既設構造物の力の釣合いや応力への配慮、境界条件、健全性や耐荷力の評価、ひずみや誤差、鋼材への入熱の影響あらゆる課題に直面し、悩み、試行錯誤の連続でした。 私は設計担当者でしたが、会社の事務所に居ても課題解決の糸口が掴めず、現場に常駐しました。既設構造物を扱う設計では、計測や施工から安全・品質・工程まで、あらゆる要素が絡み合います。当時の経験が、今の仕事の礎になっています。 その後も既設橋梁の補修や補強の仕事に多く携わってきました。特に大きな経験となったのは、首都高速道路の鋼製橋脚隅角部疲労の調査および補修・補強です。未知の問題に対して、官民学が一丸となって原因を究明し対策を施していく、技術者としての役割と責任、そしてやりがいを感じました。 夏も冬も毎晩のように高所作業車で調査や補修を行う、過酷な仕事でもありましたが、工事竣工後、当時の首都高速道路・疲労対策室の方々から個人的に感謝状を頂きました。駆け出しの未熟な技術者にとって大きな励みと感じましたし、その後も橋梁の保全・改築の道を進む、原動力になりました。 また、その頃、依田先生から「既設構造物を直したり維持する仕事にこそ、総合的な高い技術が必要となる」とのお話をして頂き、以来、私の拠り所となっています。 その後、首都高5号線のタンクローリー火災復旧の際に、私の技術者人生の師となる現在の上司との大きな出会いがありました。社会の役に立つ存在であり続ける、と言う技術者の強い魂は、私だけでなく、当社の改築事業組織の大きな核となっています。 振り返ると、多くの人に支えられ、励まされ、導かれて今があると感じます。日本の橋梁の老朽化は現在も進行の一途にあり、また、台風や豪雨災害、大規模地震の可能性など、社会インフラの重要性は今後益々大きくなるものと思います。 インフラを強靱化し、万一災害で被害を受けたとしても早期に復旧する、人々の生活を守る技術と技術者が、より求められるものと思います。インフラの保全や改築を担う若い技術者の方々には、技術者の意義とやりがいを感じられる多くの機会と、人の出会いがあることを心から願います。 次回へのバトンは、災害復旧工事などでお世話になり、インフラ保全技術の発展に尽力されている、首都高速道路の永田佳文様にお渡し致します。