株式会社 特殊高所技術
専務取締役
山本 正和
車で本州に足を踏み入れるためには「橋」が必要な愛媛県で育ちました。橋の向こうにあこがれを抱きながら瀬戸大橋を眺めていたのを覚えています。 高校卒業後は、型枠大工として8年間勤めました。型枠工事のみならず、重機を使っての掘方から鉄筋工事、コンクリート打設など工種を問わず様々な現場で経験を積みました。 型枠大工として充実した日々ではあったものの、一方で、地元を出てもっと広い世界で仕事がしたいという思いが抑えられなくなっていました。その時、偶然、人がロープにぶら下がっている写真を目にし、ロープ1本で自由自在に移動できる事、世界にはまだまだワクワクする可能性があると感じました。そして、この技術を身につけて地元で起業したいと強く思いました。その後、ロープを使う地質調査会社に1年間お世話になり、2007年に特殊高所技術を代表の和田聖司と共に設立しました。 私が一番印象に残っている業務は、会社設立後に初めて携わった瀬戸大橋の調査業務です。実績ゼロの会社でしたが、独立を後押ししてくださった恩人が本四関係の方だったこともあり、初めての仕事が瀬戸大橋という大役に不安と緊張、希望が入り乱れた複雑な心境だったと鮮明に覚えています。このような大役を任せていただいたのも、ひとえに人と人との繋がり、ご縁であり、のちに当社の企業理念を「人と人との繋がりを大切にし、ともに幸せになる未来を作る」としました。更にこの現場では列車が吊橋をたわませながら通過すると同時に、緩衝桁軌道伸縮装置が音を立てて機能しているのを目の当たりにし、橋は生きている!と実感し、心が震えました。 2007年の弊社発足当時は、橋梁の維持管理で「人がロープにぶら下がる」事に難色を示される方が多い時代でした。安全性についてご納得いただくために、かなりの時間と労力を費やしました。その後、海外での落橋事故を受けて、日本国内でも橋梁定期点検の重要性が取り沙汰されました。さらに国内でトンネル天井板崩落事故後は、橋梁定期点検要領に全部材への「近接目視」が明示されました。橋台のコンクリートが剥落し、支承が宙に浮いているなど、即通行止めになるような重大な損傷を受けた橋梁を目にすることも少なくない時代でした。この時期は安全に近接可能な技術として需要の高まりを感じると同時に、重い責任を強く感じていました。 そのような中、特殊高所技術(工法)はNETISにおいて2009年から10年間登録され、その安全性の向上も認められてVE評価を頂きました。以降、国内外問わず、数多くの橋梁の維持管理に関わらせていただいております。 今後の橋梁維持管理においては、少子高齢化を背景とした技術者不足は否めず、ドローンを始めとする先端技術の活用が必要不可欠になるでしょう。それにより、より絞り込まれた重大な損傷や、人にしか判断できない損傷に確実かつ安全に近接できる特殊高所技術が必要となり、共存してインフラの維持管理に貢献していくと考えています。最近では、調査・点検のみならず、ひび割れ注入や断面修復などの補修工事も増えています。また、局部的なブラストを用いた塗替え塗装「スポットリフレ工法」など技術開発にも取り組んでおります。これからも、良質なインフラを未来に引き継ぐ一助であり続けます。 次のバトンは、いつも桁違いの行動力で大きな刺激を頂いている極東メタリコン工業の小寺健史さんにお願い致します。