株式会社Splice―Lab 取締役
一般社団法人ツタワルドボク 事務局長
藤木 修
私は、これまで橋梁業界の多くの組織に所属し、それぞれの立場や思想の違いを経験してきました。橋梁メーカー・研究所・発注者・測量設計会社・設計コンサルタントと様々です。 私の橋歴は、1996年大学卒業後に日本橋梁に就職するところから始まります。技術研究所や製造部に所属し、当時、実用化され始めていた少数主桁橋梁や3%Ni耐候性鋼材の施工性向上や溶接品質向上に関する施工試験を担当していました。ベテラン溶接工の機械のような溶接技術や、ガスバーナーひとつでミリ単位の精度に加熱矯正していく職人技に感服したこと思い出します。 また、設計部門と工場部門の思想の異なる両者に挟まれながら、沖縄モノレールの軌道桁や鉄道トラス橋の格点部など複雑な部材の製作検討に関われたことは貴重な体験でした。橋梁メーカーで経験を積む中、2003年に独立行政法人土木研究所に出向することになりました。首都高で問題となっていた鋼製橋脚隅角部の非破壊検査手法に関する研究を担当するためです。複雑な溶接形状に対応するため、まだ土木分野には導入されていないフェイズドアレイ超音波探傷器の実用実験を担当しました。多方面から集まった意識の高い技術者と一緒に、2年間の研究に取り組めたことは大きな財産です。そして多くの技術者からの刺激により、鋼橋の維持管理の重要性を学ぶことができたのです。 2006年、福岡北九州高速道路公社に転職することになりました。建設・保全・企画部門に所属し、福岡高速環状線の建設(第503工区)、供用路線(約50キロ)の保全、30年が経過した福岡高速香椎~東浜間の大規模修繕工事、新規福岡高速6号線の企画・計画と幅広く業務を担当しました。 特に福岡高速の大規模修繕事業の立ち上げは損傷状況の把握から長期的な維持修繕計画の立案、それに伴う予算計画の検討、関係各所との調整など、多岐に渡り多忙でしたが、維持管理の方向性を明確にすることができた印象深い業務です。 また同時に、大規模修繕事業の重要性を市民に伝えるために、斜張橋の主塔に市民と登るイベントを開催。ニュースや新聞に取り上げられ達成感があり、市民や業界外と繋がることの大切さに気付くきっかけでした。 2017年には現在も活動が続くツタワルドボクの事務局長に就任し、同時に熊本県の栄泉測量設計に転職することになりました。 ツタワルドボクでは、産学官のメンバーが集まり、土木の魅力を広く伝えることを目的に活動しています。並行して測量設計会社では、市町村の橋梁点検および補修設計、3次元点群データを活用した計測業務など最新分野にも携わっています。2020年からはSplice―Lab(スプライスラボ)の取締役にも就任し、橋梁に関わる様々な業務に携わっています。 こうして振り返ると、25年間このように経験し挑戦できたことは、多くの方々に支えられたおかげだと感謝しています。よく「どの組織が最も良いか?」と聞かれることがありますが、答えは「すべて良い」。それぞれ立場や組織の違いによって視点や思想は異なりますが、大切な役割があり、良いものをつくりたい、誰かのために役に立ちたいと考えていることは、みんな同じだからです。多くの技術者によって橋梁や構造物が造られ、当たり前の生活が支えられていると、あらためて感じます。 これからは自分を成長させてくれた橋梁業界、社会に貢献したいと思います。 次は、維持管理の分野では同志であり、ツタワルドボクでもお世話になっている特殊高所技術の山本正和さんにバトンを渡します。