四国旅客鉄道株式会社
工務部工事課主席
角野 拓真
私が常々思うのは、いずれの分野の業務に携わっていたとしても、「学ぶ」ことを継続することが非常に重要なのだということである。現在の会社に入社して以来、私は鉄道構造物の新設に関する設計・計画、施工管理、あるいは維持管理といった多岐にわたる業務に携わってきた。とりわけ、橋梁はその母数が多いことから、業務として関わる機会も多く、私自身の技術者として心構えや考え方といった礎を構築する上で、大きな影響を与えたように感じる。 振り返れば、入社4年目に初めて大きなプロジェクトを任された。線路下に2車線道路用のボックスカルバートを構築する工事の施工管理業務である。私が所属する会社において、適用が初となる非開削工法のSFT工法を用いることや、初めて大きなプロジェクトを任されたことによる嬉しさや期待で胸が高鳴ったことを覚えている。 そんなポジティブな思いも束の間で、そのプロジェクトが始まると、自身の圧倒的な知識の無さを痛感し、絶望した。施工管理を行うために設計計算書を確認するが、その設計計算書は暗号化された機密情報なのかと感じるくらい、知らないことばかりであった。かなりの負けず嫌いだった私は、設計計算書に負けたくないという一心で、設計を行うための基準書や学生時代の教科書を実家から引っ張りだして、毎日のように勉強したことを覚えている。今考えると、私の人生の転機は、この時点だったのかもしれない。 その後、四国管内の鉄道橋梁の詳細調査や修繕計画を行う部署に配属され、構造物の診断や修繕方法の設計等を行った。入社してから6年ほど、施工管理業務を中心に携わってきた私にとっては、初めての維持管理業務にかなり戸惑いがあった。ここでも、自身の知識量の無さを痛感し、毎日のように診断技術などに関する書籍や事例を勉強したことを今でも鮮明に覚えている。 この部署での経験は、それまでの橋梁に対する私の認識を大きく変えた。それまでの私の構造物に対する認識は「造るもの」であったが、この部署での経験を通じて、「造り守り続けるもの」という認識に大きく変わり、維持管理の重要性を認識する機会となった。 その後、鉄道分野の研究所への出向を通じて、橋梁の維持管理の重要性を再認識し、通常の維持管理に必要となる診断技術に加えて、近年激甚化する豪雨災害に対する防災技術も含めた総合的なインフラマネジメントの必要性を感じ、現在では香川大学大学院博士後期課程で研究を行っている。令和4年3月に同課程を修了し、学位授与予定であるが、設計計算書に負けたくない一心で勉強を始めた入社4年目から通して、私の技術者人生は、「橋梁」を媒介に、一貫して「学び」を継続してきた。時には、「学び」へのモチベーションが下がり、なかなか前に進めない時もあったが、「常に楽しく学ぶ」をモットーに、無理をせず、自身のペースで「学び」を続けてきた。 近年、「リカレント教育」という言葉をよく耳にするが、何事も「学び」を継続することは重要であり、就職後も学び続けられる体制や世の中づくりが非常に重要なのではないかと感じている。私は、自身の性格と「橋梁」という媒介に出会ったことにより、常に楽しみながら勉強を継続できたが、まだまだ社会人が学びを深めるための場所や機会は少ないように感じる。 今後は、インフラマネジメントに関する研究を継続しつつ、大人が学べる場や機会を創造できるような活動を行っていきたいと考えているところである。 次は、香川高等専門学校の林和彦准教授にリレーします。