公益財団法人鉄道総合技術研究所
鉄道技術推進センター 管理課長
構造物技術研究部 上席研究員
仁平 達也
学生時代は、構造系よりも材料系に興味があったことや、新幹線コンクリート構造物の変状が社会問題になった時期でもあったことから、コンクリート中の鉄筋腐食に関する勉強をしていました。ご縁を頂き、2003年に鉄道総合技術研究所(鉄道総研)に入所した頃は、鉄筋コンクリートがどれだけ耐えられるか、すなわち、耐久性に興味がありました。 以降、RCやPC等のコンクリート構造を研究・開発対象とするコンクリート構造研究室と、鋼とコンクリートの複合構造を研究・開発対象とする鋼・複合構造研究室に在籍しながら、厳しい自然環境の中で橋梁を管理するJR北海道、世界から様々な人が集う英国の大学、および鉄道行政を司る国土交通省鉄道局への出向も経験することで、たくさんの方々のご指導のもと、様々な技術課題に取り組む機会を頂きました。その中で大きく印象に残っていることが三つあります。 一つめは、大規模地震後の鉄道コンクリート橋梁の損傷状況を踏まえた復旧方法の研究を通して、軸方向鉄筋の座屈の有無に着目した先人達の慧眼やその技術力の高さを肌で感じたことです。 二つめは、実構造物の調査やそれに基づく性能予測法の検討を通して、過去と現在から未来を予測する面白さや難しさを感じたことです。 そして、三つめは、設計や維持管理に関する技術基準やマニュアル、ツール類の作成を通して、先に作った技術者に時を超えてお会いしたように感じたことです。これらの経験により、2022年の今日では、耐久性を考えるのであれば、終局を想定して考える方がより面白いと思うようになり、自分の興味は鉄筋コンクリートの耐久性から鉄道コンクリート橋梁の寿命に変化しています。 また、20年近く鉄道コンクリート橋梁に関する業務に携わったことで得られた自分なりの感覚が二つあります。 一つめは、〝同じ性能の橋梁は存在しない〟ということです。主に技術課題に取り組む中で感じました。それは、標準設計等により同じ橋梁として設計しても施工は同じになりえず、また、供用開始後も作用や自然環境が同じになりえないことから、この世に一つとして同じ橋梁は存在しないという感覚です。これに加えて、時間軸でみると時々刻々と性能が変化し、同じ橋梁でも過去・現在・未来で同一になりえないという感覚です。 二つめは、〝同じ境遇の橋梁は存在しない〟ということです。主に出向を通して感じました。それは、日本の鉄道を取り巻く社会的な環境の大きな変化が想定される中で、性能からみた寿命を迎える前に、社会的な要求により寿命を迎える橋梁が数多く存在するかもしれないという感覚です。そして最近では、この二つの感覚から〝橋梁は人間と同じで皆違う〟と思っています。 さて、私事ではありますが、この7月より、国土交通省鉄道局から鉄道総研に戻り、研究部に加えて、地方鉄道への技術支援等といった、鉄道全般の技術課題にも取り組む部署である、鉄道技術推進センターにも所属しています。 このような環境のもと、自分を育ててくれた方々への感謝を忘れず、前述した〝同じ性能、同じ境遇の橋梁は存在しない、皆違う〟という感覚を持って、日本を繋ぐインフラである鉄道コンクリート橋梁の〝寿命〟にポジティブに向き合い、時間軸で見えてくる技術的な課題に取り組んでみたいです。 次は、鉄道橋梁の技術基準や出向先で大変お世話になりました、国土交通省関東運輸局の水野寿洋様にお渡しいたします。