橋と物流と海運

大野 豊樹トランスオーシャン株式会社
西日本営業部取締役 部長
大野 豊樹

それまで私にとって橋とは道路の構成要素の一部でしかなく、それを橋梁という一つの構造物であると認識するようになったのは学生時代に瀬戸大橋を渡り、延々と続く橋桁と天を貫く主塔を見上げた時からだったと思います。 学生時代は土木工学科を専攻していた事もあり、橋梁という分野に憧れ一時は橋梁架設の仕事に携わりたいと志した事もあるのですが、今日では海運業という立場で僅かながら橋梁という分野に携わらせて頂いております。 私が携わるこの海運という分野は橋と同じく人や物を渡す役割を担っており、島と島の間で橋が架かる以前は船が橋の役割を果たしていました。海運は物流の一部であり昔から物流は人の生活に深く関わっています。橋梁建設は物流によって支えられ、橋梁によって地域物流は支えられています。その物流の中で海運の役割は船を利用した輸送手段で大量輸送と大規模貨物の輸送を担います。 橋梁分野における海運は船による鋼材の大量輸送から始まり、組立てられた橋梁ブロックの輸送、そして陸上輸送では到底運ぶ事ができないような超大型ブロックまでも運ぶことが出来ます。 中でも見る人を圧倒するような100メートルを超す長大橋でもデッキバージという鋼製箱型の浮体に積むことで、それを輸送する事が出来ます。 デッキバージとは自船で航行能力を持たない鋼製箱型の浮体で、この浮体に貨物を載せ動力を持つ船によってそれを牽引することで超大型貨物であっても輸送をする事ができるのです。 どんな船でも船は浮力と重力の絶妙なバランスで前後、左右のバランスを均等に保ち皆さんの良く知る船の形として波に揺られながらも水面に浮いています。この船の揺れによる重心位置の変化と浮力中心位置の変化が船の転覆有無を決めています。傾いた船に発生する転覆に向かう力を浮力が上回る事で揺れによる傾きから転覆を防いでいるのです。これは貨物船やデッキバージに限らず浮体として浮いている全てに共通しています。球体が水面で回転するのは重心位置と浮力中心位置の変化が傾きによって変わらないため船とは異なりくるくると回転するのです。 我々の会社は海運業として一般的な貨物船での輸送の他、デッキバージを利用した様々な輸送と超大型で超重量貨物の輸送を担っており、今日に至るまで大小様々な貨物を全国各地に数多く輸送を行ってきました。橋梁分野においても桁ブロックの輸送をはじめ、長さ180㍍におよぶ長大橋など様々な物を輸送させて頂いております。 この海運で使用される船の構造が単的には鋼製箱桁の構造とよく似ている事や、橋梁が様々な荷重で強度検討をするように、船に重量貨物を積載した場合は船全体の強度や局部的な構造の一部を梁として強度検討を行う事もあります。それが学生時代に構造力学を学んだ私にとって比較的に取組みやすい分野であったこと、そして超大型貨物の輸送が私にとって初めて瀬戸大橋を見た時と同じように、魅力的に映ったこと。それが幸運にも今日まで僅かながらも橋梁という分野に携わる事ができた要因なのではと考えております。 最後に橋梁と言う事で学生時代を思い出し数年ぶりに連絡を取らせて頂いた友人でコスモ技研技術部室長の東真靖様にこの橋を繋ぎたいと思います。 またこの企画で橋を懸けて頂きました寄神建設技術研究所の石田雅博副所長に感謝するとともに人と人を繋ぐこの企画に改めて感謝とお礼を申し上げたいと思います。

愛知製鋼