丸ス産業株式会社
常務取締役
加藤 十良
執筆を依頼され、「橋やさん」でない私ですが、有難い機会として執筆を引受けることにしました。 私は学生時代に、SFRCの載荷試験や数値解析に携わっています。卒業後、ゼネコンに入社すると構造物基礎の新工法開発を担当することになりました。実験と解析を繰り返す毎日は多くのことを学び、かつ楽しむことができる仕事でした。平成3年、某資格に合格したのを機にコンクリートに関する仕事が増え、現場に行く機会も多くなりました。これはこれで多くのことを学ぶことができ、貴重な経験になっています。 建設不況の嵐が吹き荒れた平成12年頃、ゼネコンを辞め、次の職場で橋梁工事の施工管理を経験しました。これが橋との初接触で、基礎工と下部工ならびに支承、上部工、床版の新設工事に携わっています。その後、さらに地元の建設会社に転職、受注する仕事の半分は、橋梁の補修補強工事だったため、橋との関係はさらに深まり、耐震補強、材料の補修、再塗装、落橋防止システムの設置、高欄取替、橋面工、伸縮装置取替など様々な工事に携わっています。 平成20年の秋、上司のすすめもあり「社会基盤メンテナンスエキスパート養成講座(ME養成講座)」に応募しました。抽選をパスした私は、2カ月間岐阜大学に通いました。週の前半に大学で受講、後半は会社で仕事をする日々でしたが、そのとき橋梁の先生方に懇意にしていただいたことは大きな財産となっています。 私は、かねて社会関係資本(SCと云う)の概念を知ってから、そこに水を差さない配慮が働き方改革につながると信じていますが、そのSCの構成要素である人的ネットワークの糸口を、この大学で見つけることができました。MEになると先生方のご厚意で、国道41号不動橋における耐候性鋼材の損傷に関する現地施工検討委員会に参加させてもらいました。橋の専門家と共に、耐候性鋼材の詳細調査や、ブラスト処理・水洗いに関する施工の問題点について調査し、実地に学んだことは、大変良い経験となっています。 少し話が逸れますが、第8回建設トップランナーフォーラムで『老朽化から社会インフラを守る』をテーマに「岐阜県メンテナンスエキスパート」に関する発表をしたことがあります。そこで「社会人の学び直しで得た知識と人的な繋がりを会社の事業に展開することが鍵になる」ことに着目しましたが、その予想は正鵠を射ていたと思っています。 平成26年に受注した橋の補修工事に、耐候性鋼材の部分塗装が含まれていましたが、サビが硬いため当初設計の方法だと問題があると察し、その分野の専門家である日鉄住金防触の今井氏に教えを請い、これを補修塗装の施工管理に反映しました。ブラスト処理後の付着塩分量の管理、Rc―I塗装の防食下地処理について不動橋で学んだ経験が役立ち、設計変更に繋がったのは実に嬉しかった。社会人となってからの学び直しの重要性を自ら証明したようにも感じました。 ところで、材料劣化の場面で鋼、コンクリート、土工のいずれにも当てはまる法則があるように思います。それは化学反応や物理現象が進む方向についてで、エントロピーが増大するという原則で説明できます。それに抗う術としては、水環境を如何にコントロールするかが重要であり、土木材料に対峙するときの基本法則だと考えるようになりました。SCの概念を理解して、基本法則に則って技術課題に取組むと解決策が得られる。これが理解できたのは大変ありがたいことだと思います。 それでは次回はME養成講座で出会い、人的ネットワークでも「水を差さない」エンジニア、日本ミクニヤの掛園恵様を紹介します。