橋の名医を目指して

大山 高輝株式会社ドーコン
交通事業本部 構造部グループ長
大山 高輝

この度、橋梁点検車の運用や相談でお世話になっております、タダノ木村マネージャーよりバトンを受け取りました。 私は、1996年にドーコンに入社し、主にコンクリート構造物の計画・設計・施工管理を経験した後、2003年から橋梁点検・診断や、橋梁調査・補修設計業務に携わっております。主に、北海道開発局が管理されている国道橋梁の点検を継続して受注させていただいており、北海道内の国道橋梁は一通り点検させていただきました。 その中でも、今も記憶に残っているのは、04年9月9日未明に大型の台風18号によって落橋した国道229号の大森大橋です。実は、落橋10日前の8月31日、私が点検員として大森大橋の橋梁点検を行っておりました。第一報を聞いた時には、「照明柱が倒れたくらいでは」と誤報であることを祈りましたが、現地に着いたら本当に橋がなくなっており、まさに自然の驚異を体感し、唖然といたしました。その後も、14年9月の支笏豪雨災害、18年9月の北海道胆振東部地震など、災害時の緊急点検や応急対策検討などを経験しました。 さて、橋梁に関する点検・診断・調査・補修という業務は、橋梁詳細設計業務とは異なり、橋が完成した時の基準、施工の善し悪し、構造性、架橋環境、橋が使われてきた履歴、地震などの自然災害や事故の履歴などにより、個々の橋梁で損傷の状態は千差万別です。残存耐荷力や、損傷に対する緊急性の判断には、多くの要素を確認する必要があります。 私は、現場で損傷を発見した際、たくさんの想定される損傷原因から、消去法で選択していけばわかりやすいと部下に説明しています。また、音やにおいにも注意して損傷原因を探すことが重要だと伝えています。特に、損傷の進行には、「水」の浸入による影響が大きいことから、水が入ってくる経路や、積雪が溜まりやすい場所かどうかの判断なども重要だと説明しています。これらの知識は、机上の勉強よりも現地を見た方が蓄積されると考えますので、橋梁維持管理分野での人材育成は、現場でのOJTが重要だと考えています。若手職員にはぜひとも現場に足を運んでもらい、汗と泥にまみれながら、特に損傷が多い、伸縮装置直下の支承周辺の状態などを点検してもらいたいなと思っています。 たくさんの損傷を見て、診断や調査を経験したおかげで、見た目どおりガテン系で勉強もあまり得意ではない私でも、コンクリート診断士、土木鋼構造診断士に合格することができました。近年は、土木学会鋼構造委員会の「道路橋床版の設計の合理化と長寿命化技術に関する調査研究小委員会」に参画させていただき、日本全国での床版の損傷傾向や対策などを勉強させていただいており、50歳を過ぎた今でも、まだまだ知らないことがたくさんあるなと思い知らされております。 話は変わりますが、点検支援技術の原則利用が通達され、弊社でもドローンの導入や、非破壊検査技術の採用など、利用促進に向けてチームで色々な試行を行っているところですが、やはり最後の判断は「人」が行わなければならないわけで、どんなに技術が発展しても、補修の要否の判定は前述の通り現場でOJT育成された技術者が判断すべきだと考えます。 昔、娘が小学生のころ、「パパの仕事ってなんて説明すればいいの?」と言われたことがありました。私は、「橋のお医者さんを目指してがんばっているよ」と回答しました。建設コンサルタントは、こういった説明をするのが難しい業種だと思っていますが、橋梁メンテナンスに携わる技術者は、皆「橋のお医者さん」と説明するのがしっくりくるのかなと思います。 話がずれましたが、点検支援技術、AI診断など、将来の技術者不足に備えて研究開発が推進されていく傍らで、相変わらず損傷のある現場に赴いて、橋とその損傷した部材に向き合い、ゆっくりと触診しながら、応急対策を考えたりすることは「橋の名医」になるためには重要なことだと思っております。だんだんと脂肪がつきはじめ、身体が動かなくなってきておりますが、あと10数年、可能な限り現場に足を運んで、自己研鑽を忘れず、部下や後進の指導を頑張りたいと思っています。 次回、点検支援技術のうち、地中や床版の非破壊検査技術の老舗である、ジオ・サーチの森田様にバトンをお渡ししたいと思います。

愛知製鋼