メンテナンス伝道師として

山田 光希国土交通省中部地方整備局
中部道路メンテナンスセンター 事業対策官
山田 光希

前回・執筆者の大日コンサルタント、河合さんからご紹介いただいた際、私のような若輩者でよいのだろうか、と一瞬躊躇しました。しかし、国土交通省(旧建設省)に入省して早いもので30年が経ち、一つの区切りとして書かせていただこうと思い直し、筆を執った次第です。 平成6年、旧建設省へ入省し赴任したのは三重県松阪市にある紀勢国道事務所でした。調査設計課に配属され、担当する業務は交通量調査や地質調査など基礎的データの収集が主でしたが、入省半年後に携わった国道260号錦峠の橋梁詳細設計が、私の橋との最初の接点となりました。 学生時代に、1車線のすれ違いもままならず、途中ガードレールもない錦峠を冷や冷やしながら走った辛い経験があったため、改良事業に関わるという責任感を持って取り組んでいたことが思い出されます。 その後も道路事業における設計や工事発注、更には現場監督など主に改築事業に従事してきましたが、平成23年に中部技術事務所(以下「中部技術」)へ異動となったことが橋梁人生のターニングポイントとなりました。 橋梁の法定点検が始まったのは平成26年度からですが、それ以前も5年に1度の点検、診断は行っており、中部技術では橋梁の点検結果を基に健全性を診断する業務を担当していました。 診断を行うにあたっては、それぞれの橋梁がおかれている環境条件、損傷の度合いや進行性、構造特性などを踏まえ総合的に判断する必要がありますが、当時の私は知識不足が否めず悩んでいました。 そんな時、上司からの勧めもあり岐阜大学が主催する「社会基盤メンテナンスエキスパート(ME)養成講座」を1カ月受講する機会を得ました。1カ月間通常業務から離れて大学へ通い、アセットマネジメントの最新情報はもとより、構造力学や地盤工学など学生時代に戻ったような学び直しの期間を過ごすことができました。社会人になると5日間程度で個々の専門知識を習得する研修などは受講できますが、これだけの期間を勉学(たまに懇親会)に集中でき、またMEの資格を取得したことで、診断業務や事務所からの技術相談へも自信を持って対応できるようになったのが一番の収穫でした。また、今でも先生方に懇意にしていただいていることは私の財産にもなっています。 現在所属する中部道路メンテナンスセンターは、急速に老朽化する社会資本の対策を強化するため、点検データを生かした戦略的・効率的なメンテナンスの推進を図る技術拠点として平成31年4月に開設された比較的新しい事務所です。具体的には「直轄道路構造物の健全性診断や技術支援」「地方公共団体への技術的支援」など、中部技術が過去に実施していた業務も引き継いで行っています。 当時と比べると橋梁の健全性に代表されるように、確実に道路構造物の老朽化が進んでおり、より深刻な状況が近づきつつあります。事務所や地方自治体の管理担当者も変わっていくため、これまで培った知見を基に長寿命化に取り組む必要性を説いていく伝道師としての活動が益々重要だと感じている今日この頃です。 次回はME養成講座のフィールド実習講師として共に活動している、グラン・ソラリスの曽我宣之様にバトンを渡したいと思います。

愛知製鋼