インフラ長寿命化に向けて

徳納 剛福徳技研株式会社
代表取締役社長
徳納 剛

私がコンクリート補修の仕事に携わり始めてから、早くも30年が経過しました。当初は、ひび割れや浮き・剥離が生じた個所に対し、ひび割れ注入や断面修復といった対処療法的な工法を行っていました。しかし、これらの工法のみでは再び劣化が進行することを何度も目の当たりにしました。その度に、コンクリートの劣化には根本的な原因があり、その劣化程度や環境条件に対して定量的に対応しなければ、再劣化を防ぐことはできないという考えが強くなっていきました。 そんな時に出会ったのが、補修薬剤である亜硝酸リチウムでした。この薬剤は、表面に塗布するだけで鉄筋の腐食を止め、アルカリシリカ反応(ASR)の膨張も抑えることができるという不思議なものでした。しかし、実際に亜硝酸リチウムを塗布するだけの工法では、時間が経つと再び劣化が進行することがわかりました。 研究論文では、亜硝酸リチウムの効果は確実に実証されていました。必要な量の亜硝酸リチウムを、必要な個所に適切に届けることができれば効果が出るということです。つまり、問題は工法にあると考えました。 ある日、私はふと、コンクリート表面に水をかけると浸み込むことに気づきました。これをきっかけに物理的に圧力をかければ、亜硝酸リチウムも水と同様にコンクリート中に浸み込むのではないかと考えました。そこで、油圧の圧入機を開発し、実験を繰り返しました。その結果、亜硝酸リチウムをコンクリート内部に圧入することで、亜硝酸リチウムがコンクリート全体に行き渡り、効果的に劣化を防止できることがわかりました。 この研究において、極東興和の江良氏の存在は大きな支えとなりました。彼は、亜硝酸リチウム圧入工法に関する研究で京都大学から博士号を取得し、この工法を学術的に確立しました。私たちはこの成果を基に、ASR対策で実績を積み上げ、再劣化のない工法として確立しました。さらに、カプセル式の簡易型圧入装置を用いて、塗布型防錆材では困難だった、コンクリート深部まで面的に防錆可能な塩害対策工法を開発し、多くの現場で採用されるようになりました。これにより、亜硝酸リチウムの適用範囲が広がり、より効果的に構造物を維持管理できるようになりました。 現在、私たちは高強度コンクリート用の圧入機を開発中です。この新しい圧入機は、来年には完成する予定です。これにより、さらに多くのコンクリート構造物に対して、効果的な補修が可能になると期待しています。 30年に及ぶ経験を通じて痛感したのは、技術の進歩はインフラの長寿命化に寄与したい、という揺るぎない意志と絶え間ない挑戦によってのみ実現されるということです。私はこれからも、新たな技術の開発に邁進し、社会に貢献することを誓います。そして、未来の技術者たちがその志を継ぎ、更なる高みを目指せるよう、後進の育成にも全力を尽くしてまいります。 次回は、常に協力してくださっているコンクリートメンテナンス協会の江良和徳専務理事にバトンをお渡しいたします。

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