出会いと転機

江良 和徳一般社団法人コンクリートメンテナンス協会
専務理事
江良 和徳

大学時代は地盤工学の研究室に所属し、主に軟弱地盤について学んでいましたが、入社した建設技術研究所で橋梁設計を行う部署に配属されました。ここで初めて橋梁の世界に出会います。経験を積むにつれ、橋梁設計の楽しさとダイナミズムを実感し始めていましたが、九州出身の私にとって東京の生活は全てが過密すぎて(特に通勤ラッシュ)、わずか5年で音を上げて退職してしまいます。 その後、数社の異業種を経験し、なぜか縁もゆかりもなかった広島に生活拠点を移し、極東工業(現・極東興和)に入社しました。たしか求人票には「PC橋梁設計技術者募集」とあったはずですが、配属されたのは技術本部内に新設されたばかりの「補修部」という部署でした。ここで初めて維持管理の世界に出会います。当時、社内にこの分野の専門人材がほとんどいなかったため、まずはコンクリート構造物の劣化メカニズムや調査診断技術、補修・補強技術の情報を徹底的に収集し、社内業務マニュアルを作成することから始めました。補修部の業務は、橋梁現地調査と劣化診断、補修詳細設計と施工、耐震補強設計と施工などが主でしたが、ここで初めて亜硝酸リチウムという材料に出会います。この材料は必ずコンクリート構造物の長寿命化に寄与できると確信し、次第に亜硝酸リチウムに関する業務のウェイトが増えていきました。 そのような中、初の海外出張として「fibシンポジウム2004フランス」へ参加する機会を得ました。ここで初めて京都大学の宮川豊章先生と出会います。これが私の人生における大きな転機となり、この出会いを契機にさまざまな委員会活動、学会活動、共同研究などに携わることになりました。また、亜硝酸リチウムに関しては、自社開発の枠を超え、宮川先生ご指導の下、京都大学大学院博士後期課程での研究を経て内部圧入技術の確立に取り組むことができました。  学位取得後は技術の事業化に向けた普及活動に着手し、一般社団法人コンクリートメンテナンス協会を設立しました。協会の活動は、亜硝酸リチウムを核とした補修技術の実用化と普及拡大を中心に展開しています。設立当初は有志5社でのスタートでしたが、現在では全国170社を超える規模に成長しました。協会の主な活動として、「コンクリート構造物の補修・補強に関するフォーラム」という技術講習会を全国で開催しています。ここで初めて「伝える」という活動に出会います。新技術の優位性を理解していただくにはコンクリートの劣化メカニズムから伝えることが近道ですし、その他のさまざまな技術についても紹介すべきです。 また、今後の維持管理分野の動向を国土交通行政の観点からも把握することも重要ですので、官・学・産の各分野から講師を招聘し、偏りのないバランスの取れた内容のフォーラムとなるよう心掛けています。 維持管理分野は比較的新しい市場であり、これからこの分野に本格的に取り組もうとしている方々も多いはずです。特にそのような方々をこのフォーラムを通じて支援したいと考えています。この「伝える」という活動で、未来の社会基盤を支える技術の普及と維持管理分野の発展に寄与したいと考えています。 次は、私が京都大学大学院の博士後期課程において、同期の社会人ドクターとして切磋琢磨、叱咤激励、紆余曲折を共にしてきた西日本旅客鉄道の渡辺佳彦氏にバトンをお繋ぎいたします。

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