3つの『あ』  

渡辺 佳彦西日本旅客鉄道株式会社
山陽新幹線統括本部 施設部土木課 担当課長
渡辺 佳彦

私の橋梁との出会いは、京都大学工学部交通土木工学科4回生の時に土木材料学研究室に配属されたことがきっかけです。当時、在籍していたクラブの同級生が偶然知り合いで、かつその人を「いい先生よ」と言ってくれたその一言で、あまり深く考えずに「いい先生」が指導教官である藤井學先生の研究室を選びました。研究室では高流動コンクリートの耐久性や鉄筋腐食抑制効果等に関して、藤井先生、宮川豊章先生や小林孝一先生(現:岐阜大学)をはじめとした多くの先生や社会人の皆様にご指導いただきながら、充実した研究室生活を、しかも通常より1年多い4年間過ごすことが出来、この経験が社会人になってからも役立っております。 就職活動に際し、ある方から、山陽新幹線高架橋のコンクリートは状態があまりよくないから、入社してから補修工事等色々やることがあるよ、と教えていただいたこともあり、西日本旅客鉄道に入社しました。しかし、入社2年目の1999年に、山陽新幹線の福岡トンネルや北九州トンネルのコンクリート剥落事故が発生し、多くのお客様にご迷惑をおかけしました。ただ、その翌年から社内で土木構造物の維持管理に関する種々のWGが設置され、まだ入社3年目でしたが、上司の配慮もあり、山陽新幹線高架橋等コンクリート構造物の点検や補修の手引きの作成に携わらせていただきました。そこでは、特に点検や補修に従事する全ての人にわかりやすい手引きとするべく、写真や図を多く取り入れることを心掛けました。これが20年以上たった現在でも活躍しており、また補修の手引き制定以降に補修した個所では再劣化が発生していないことも大きな成果と考えています。 現在、私は山陽新幹線の耐震補強工事の計画推進に携わっております。とりわけ、高架橋柱や橋脚などの耐震補強や落橋防止対策等については、1995年の兵庫県南部地震以降、継続して対策を実施しており、これまでに落橋防止工や高架橋柱(せん断破壊先行型)の対策は完了しておりますが、引き続き高架橋柱(曲げ破壊先行型)や橋脚などの対策を実施中です。耐震補強の施工にあたっては、河川・道路管理者や高架下を利用されている方などのご理解をいただきながら進めていく必要があり、工事着手までの調整が非常に重要です。  鉄道構造物の維持管理にあたって、また先に述べた社外の方々との協議に際しての、私のモットーは「3つの『あ』」です。 ①「あ」んぜん:鉄道をご利用いただく全てのお客様が、出発地から目的地まで安全かつ快適に旅行いただくために、縁の下の力持ちとなる構造物をしっかり維持管理する ②「あ」いさつ:一日の始まりのあいさつ、仕事の合間での声かけだけでなく、社外の方との協議を円満に進めるためにも、明るく元気に「あいさつ」することから始めていくことを心がける ③「あ」りがとう:仕事がうまくいったときはもちろん、うまくいかなくとも次へのきっかけがつかめた時など、あいさつと同様、仲間や関係者に感謝を伝えるためにも「ありがとう」のひとことは大事であり、次の業務を円滑に進めていく道を開いていくことにつながる 耐震補強のさらなる推進のみならず、2028年度からは山陽新幹線の大規模修繕工事が始まります。鉄道をご利用いただくお客様のために、鉄道を支える構造物の維持管理に、引き続き尽力させていただく所存です。 前回の橋歴書を執筆された江良さんと一緒に、社会人ドクターで苦楽を共にさせていただいた、阪神高速道路の松本茂さんに次のバトンを託します。

愛知製鋼