㈱トーニチコンサルタント
鉄道本部第1技術室 室長 久保 武明
今回、ご縁がありましてこのコーナーの執筆を仰せつかりました久保と申します。よろしくお願い致します。私は1992年3月に日本大学理工学部土木工学科を卒業しまして、同年4月に現在勤務しておりますトーニチコンサルタントに入社しました。入社から約26年になりますが、鉄道構造物全般の計画設計、中でも鋼鉄道橋を専門として仕事をさせて頂いています。
入社後、鋼構造を専門とするグループに配属になり、東武鉄道北千住駅の改良工事に係る詳細設計業務に携わりました。当時何をしていたのかを振り返ると、上司の指示のもと、文字の練習、図面の修正、青焼き図面の着色、計算書の頁ふり、といった作業の日々だったと思います。今、管理職の立場から思い返すと、何の知識も能力も無い、大学を出ただけの新入社員、この地道な作業から自分で興味を持つところを見出して知識を習得せよ、との上司の指導だったと思いますが、親の心子知らず状態でした。
その後、JR東日本東京駅の改良工事に係る詳細設計業務に携わりました。当時は長野オリンピックに向けて設計施工が着々と進んでいる状況の中、私が担当させて頂いたのは、ホーム桁や階段桁、単純下路桁、単純合成桁などでした。一般図、設計計算書、詳細図、数量計算書の作成作業を、すべて自分の手で行った非常に貴重な始めての経験でした。当時はパソコンを使っていません。計算書も図面も手書きです。A1の図面用紙に向かい作図レイアウトが定まらず、製図台の前で手が動かずに一日考え込んでいたことを思い出しました。今はキャド図面の時代ですから、パーツを作図してレイアウトは後で、といった作成方法が可能なため、もう考え込むことはありません。
そろそろ設計も少し解ってきたと思い始めた頃に携わったのが、TX線小貝川橋りょう(3径間連続合成桁橋、3径間連続下路トラス橋)の詳細設計でした。単純桁の経験しか無い私が、連続桁の設計への初めてのチャレンジで、今思えば大変恐ろしいことです。設計標準は単純合成桁を対象としているため、連続合成桁特有の内部応力の評価方法や負曲げ範囲のずれ止めの設計方法などの記述はなく、鉄道建設公団設計室(当時)の保坂鐵矢氏にいろいろなことを教えて頂きました。また、下路トラス橋、床組構造が多種多様であることなど何も知らず、RC床版縦桁方式が採用されたのですが、主構造の設計に有効としていないRC床版が、主構造にどのような影響を及ぼすのか、単純桁では無視することも可能であるが連続桁で考慮すべきことは、理解することが出来ずにとにかく解析してきますと言い、理解するまでには長い時間がかかりました。
その後、いくつかの鋼鉄道橋の設計をさせて頂き今日に至りますが、鋼鉄道橋は比較的長支間、桁下制限が厳しい、架設性に制約のある狭隘箇所など、限定された特殊な条件下で採用されることが多いです。そのため、最近の設計では、構造物の剛性の確保、騒音対策への配慮が特に重要視され、それらには鋼とコンクリートの複合構造が有効な構造形式であると考えられます。しかし、複合構造は異種材料間の接合部の力学的挙動は複雑で、割り切りや安全側の配慮にて設計を行っている場合も多く、設計手法やそれを再現する構造ディテールが未解明であるところもありますので、勉強することが多く、今後も研鑽を積みたいと思っています。
次は、前橋工科大学の谷口望准教授につなぎます。