首都大学東京 大学院
准教授 中村 一史
実務との関わり少ない大学教員がこのコーナーを担当させていただくのは大変恐縮ですが、どうぞよろしくお願いします。
私は、1992年に東京都立大学を卒業、1994年に東京都立大学院(修士課程)を修了し、同年4月に同大学助手に着任しました。その後、2005年に首都大学東京に改組され、土木の名称も消えましたが、大学院修了から現在までの24年間、同じ職場に勤務しています。博士号は、首都大学東京名誉教授前田研一先生にご指導をいただき、2009年に取得いたしました。
大学に着任した当時から10年ほどは、主に長大吊形式橋梁、なかでも長大斜張橋の限界スパン領域での座屈耐荷力や不安定問題、さらに斜張橋の長大化の一つの方策として、超長大斜張吊橋の開発に取り組みました。
形状決定で計算が収束しなかったり、境界条件の変更で半年の解析結果がボツになったりと、苦い経験もありました。一つの構造特性を示す場合でもパラメータを振り、納得するまで解析を回したりしていましたので、研究室の学生には苦労をかけたのではないかと思います。脱線しますが、大学の構造力学では、せいぜい1次不静定までで、不静定構造物を扱わなくなっています。背景には、専門・カリキュラムの多様化がありますが、複雑な計算はFEMで、という考えもあるようです。個人的には、骨組構造解析は、電卓のように手軽に扱え、構造特性を自由に思考できるツールになって欲しいと思います。
何度か現場を見せていただいた、明石海峡大橋、多々羅大橋が世界最長を記録して完成し、次の海峡横断構想に思いを馳せながら研究ができたことは、改めて振り返ると幸せだったと思います。
2000年頃からは、構造と維持管理の合理化に期待して、繊維強化プラスチック(FRP)に着目した研究に取り組んでいます。それまで実験的な研究は行っておらず、ノウハウもありませんでしたが、明星大学教授鈴木博之先生にご指導をいただき、CFRP接着による鋼構造物の補修・補強に関する研究を始めました。
コンクリート分野では、橋脚の耐震補強で実績のある工法ですが、鋼構造物への適用性は十分に解明されていませんでした。研究を進めていくと、CFRP接着工法には、当て板工法と同様の効果があることが分かってきました。軽量なCFRPは、現場でのハンドリングがよいので、適用が少しずつ増えています。
同じ頃からFRPを橋梁の部材に適用する研究も始めました。ガラス繊維のGFRPは弾性係数が小さいため、桁に用いるとたわみやすく不利になりますが、適切な固定方法やトラス構造を採用すれば、歩道橋レベルには十分に適用できることがわかってきました。最近では、企業との共同研究により、トラス桁形式GFRP製橋梁用検査路を開発し、高速道路の橋梁に設置されました。
FRPは、建設材料としての実績が少なく、異方性の性質もあるので、材料・構造特性の把握が不可欠です。JIS等の標準的な試験法では評価できないこともあるので、学生らと試験方法や、治具・載荷方法を考案し、試行錯誤しながら研究を進めています。
この24年間の研究テーマは、超長大橋から歩道橋へ、鋼からFRPへとだいぶ変わりました。一貫性は全くありませんが、長大橋の限界への挑戦や、新素材の建設材料への適用など、新しいモノ・コトにこだわって取り組んでいて、結果としてそうなったのではないかと考えています。これからは、多少ではありますが、得られた知識・技術の伝承や、教育・研究を通じて次世代を担う人材の育成にも微力ながら貢献できればと考えています。
次は、中央復建コンサルタンツの坂本眞徳様につなぎます。